Orca(stablyai/orca)は、複数のAIコーディングエージェントを並列で走らせるためのIDEだ。公式は自らを「a fleet of parallel agents(並列エージェントの艦隊)」を扱う ADE(Agentic Development Environment) と呼ぶ。Claude Codeで新機能を実装させながらCodexで別ブランチのバグを直したい、という場面で、tmuxの分割やブランチの切り替え、git stash の応酬をなくすための道具である。

Orcaで1つのプロンプトを複数エージェントに扇形展開し、各エージェントを独立したgit worktreeで並列実行して差分を比較するデモ
Orcaの中核機能「並列worktree」の実動デモ(出典: stablyai/orca 公式README)

30秒でわかるOrca

  • ・任意のCLIコーディングエージェントをエージェントごとのgit worktreeで並走させ、1つのウィンドウから指揮する
  • ・Claude Code・Codex・Grok・Geminiなど30種以上を明示サポート。ターミナルで動くCLIなら原理的に動く
  • ・BYOS(既存サブスクリプションをそのまま使う)。Orca本体はMITで無料
  • ・iOS/Androidのモバイルcompanion、SSH経由のリモートworktree、Design Modeを備える
  • ・★57,338(2026-08-31時点)。ほぼ日次でリリースが切られている

AIエージェント基盤の全体像と他フレームワーク比較は AIエージェントフレームワーク比較2026|LangGraph・CrewAI・Dify等9種をStar数・実コードで検証 をご覧ください。

Orcaとは:CLIエージェントを並列で走らせるADE

キャッチコピーは「The AI Orchestrator for 100x builders.」、README冒頭は「Run Codex, ClaudeCode, OpenCode or Pi side-by-side — each in its own worktree, tracked in one place.」だ。従来のAIコーディングツールは「1人の開発者と1つのアシスタント」が前提で、Copilotはエディタに常駐し、Cursorはチャットを1つのウィンドウに出し、Claude CodeやCodexもターミナル1セッションの会話が中心だった。Orcaは「複数のエージェントを同時に動かし、1人の人間が監督する」という一点に特化している。

開発元のStably AIはサンフランシスコ拠点のY Combinator採択スタートアップで、もともとはQAエージェント・テスト自動化が主力だった。Orcaは社内でエージェントを大量並列に走らせるニーズから生まれた。

項目 内容
リポジトリ stablyai/orca
スター数 57,338(2026年8月31日時点。7月31日は33,810)
フォーク 2,367(2026年7月31日時点)
主言語 TypeScript
形態 デスクトップアプリ(ADE)+ モバイル companion
公式サイト onorca.dev
ライセンス MIT
対応プラットフォーム macOS / Windows / Linux / iOS / Android
リポジトリ公開 2026年3月17日

チームは「we ship daily(毎日出荷する)」と公言しており、READMEの機能リストにすら「常に実態に追いついていない」と但し書きがある。最新の機能はGitHub Releasesのチェンジログが事実上の一覧だ。

Orcaの並列worktree:エージェントごとに隔離する設計

設計の中心は「worktree-native」だ。READMEは「Fan one prompt across five agents, each in its own isolated git worktree — compare the results and merge the winner.」と書いている。

FAN OUT並列 worktree

1つのプロンプトを広げ、別々の worktree で走らせて勝者をマージ

  1. プロンプト

    1つ書く

  2. 扇形展開

    エージェントごとに worktree

  3. 並走

    Claude Code・Codex ほか

  4. diff を比較

    行に注釈して差し戻す

  5. マージ

    良い結果だけ取り込む

出典: stablyai/orca README「Fan one prompt across five agents, each in its own isolated git worktree」

git worktree add は1つのリポジトリから複数の作業ディレクトリを切り出す仕組みで、それぞれが別のブランチをチェックアウトできる。Orcaはこのworktreeを各エージェントに1対1で割り当てる。効能は3つある。

・状態汚染がない:Claude CodeとCodexが同じファイルを触っても別worktreeなので衝突せず、統合の段階で初めてmergeが走る
・git stash が要らない:別のタスクを試したければ新しいworktreeを切ってエージェントを置くだけ
・レビューが1か所に集まる:内蔵diffビューアで各worktreeの差分を見て、そのまま編集・コミットできる。GitHubのPR/Issue/Actionsチェックも各worktreeに紐づく

tmuxとカンバンで並列エージェントを可視化する先行例は agent-viewer完全解説:tmuxで動くClaude Codeエージェントをカンバンで管理するOSS で扱った。Orcaはこれを、tmuxペインではなくネイティブGUIとgit worktreeで実現している。

対応するCLIエージェント30種以上とフレームワーク中立性

READMEは「Works with any CLI agent — if it runs in a terminal, it runs in Orca.」と明記する。明示リストは公開当初の23種から30種以上に増えた。

カテゴリ エージェント(提供元)
大手LLM CLI Claude Code(Anthropic)、Codex(OpenAI)、Grok(xAI)、Gemini CLI・Antigravity(Google)、GitHub Copilot CLI(GitHub)
OSS / 独立系 OpenCode、Goose(Block)、Continue CLI、Cline CLI、Charm Crush、Qwen Code(Alibaba)、Mistral Vibe
商用エディタ系 Cursor CLI、Kiro CLI、Kilocode、Augment Auggie、Codebuff、Amp(Sourcegraph)、Droid(Factory.ai)、Kimi Code(Moonshot AI)、Rovo Dev(Atlassian)
推論ハーネス系 Pi(pi.dev)、oh-my-pi(omp.sh)、Hermes Agent(Nous Research)
自社系 Autohand Code(autohandai)

OrcaはLLMを売らず、ユーザーがすでに契約しているサブスクリプションをそのまま使う。利用者にとっては、リファクタリングはClaude Code、全体検索はGemini CLIのように得意不得意で混在させたり、同じ課題を5つのエージェントに投げて返ってきたdiffを見比べ、一番良いものをマージする使い方が、ラッパーを書かずにできる。Orca側はCLIプロセスを起動するだけなので、スウォーム系の基盤とも衝突しない。Claude Code/Codexにネイティブ統合するスウォーム基盤は ruflo|Claude Code/Codexにネイティブ統合する100エージェント・スウォーム基盤 で扱った。

Orcaのインストールと、モバイル・SSH・新機能

インストール経路は3つ。macOS/Windows/Linux共通の直接ダウンロード(onorca.dev/download かGitHub Releasesの .dmg / .exe / .AppImage)、macOSのHomebrew、Arch LinuxのAURだ。ヘッドレスLinuxサーバーでは orca serve が使える。

# macOS(Homebrew Cask)
brew install --cask stablyai/orca/orca
# アンインストール
brew uninstall --cask stablyai/orca/orca
# Arch Linux:ビルド済みバイナリ(ソースから組むなら stably-orca-git。初回10〜20分)
yay -S stably-orca-bin
orca

起動してもログインは求められない。ローカルにある claude codex grok gemini などのCLIを自動検出するので、使いたいエージェントは各公式手順で先に入れておく。リポジトリをドラッグ&ドロップか File > Open で開くと、worktreeのルートが作られる。

モバイルcompanionとSSHワークツリー

iOS版はApp Store(TestFlightもある)、Android版はGitHub Releasesの mobile-android-v* タグからapkを落とす。各worktreeの状態(実行中・入力待ち・完了)の監視、追加指示の送信、プッシュ通知、簡易diffプレビューができ、「1時間かかるリファクタリングを頼んで外出し、結果をスマホで見て次を指示する」使い方になる。

Orcaのモバイルcompanionアプリで、デスクトップで走る複数エージェントの進捗を監視し、外出先から追加指示を送るデモ
モバイルcompanionアプリの実動デモ(出典: Orca公式ドキュメント(Mobile))

SSHワークツリーは「Run agents on a beefy remote box with full file editing, git, and terminals — auto-reconnect and port forwarding included.」というもので、リモートサーバー上にworktreeを切り、そこで動くClaude Code/CodexをOrcaから操作する。重い処理をリモートに寄せたいとき、チームの開発サーバーで並列タスクを分けたいとき、本番に近いネットワーク内でしかコードを動かせないときに効く。Workspace中心の長期エージェント環境という別の設計は holaOS|AIエージェントと人が同居するOpen Agent Computer、Workspace中心設計を解読 で扱った。

2026年に追加された主な機能

OrcaのDesign Modeで、内蔵Chromiumウィンドウ内のUI要素をクリックしてHTML・CSS・スクリーンショットをエージェントのプロンプトに送るデモ
Design Modeの実動デモ(出典: Orca公式ドキュメント(Design Mode))

・Design Mode:内蔵Chromiumで崩れたUI要素をクリックすると、そのHTML・CSS・切り抜きスクショがそのままプロンプトに渡る
・Terminal Splits:WebGLレンダリングのGhostty級ターミナル。無限分割と再起動後も残るスクロールバック
・Annotate AI Diffs:AI生成diffの任意の行にコメントを付けて差し戻す。レビュー・編集・コミットがOrca内で完結する
・GitHub & Linear 統合:PR・Issue・ボードをアプリ内で見て、任意のタスクからworktreeを開ける
・Orca CLI:orca worktree create・snapshot・click・fill などで、エージェント自身がOrcaを操作できる
・Computer Use:デスクトップアプリや可視UIの操作をエージェントに任せる
・Quick open / アカウント切替 / 使用量トラッキング:Claude・Codexの使用量とレート制限のリセットを把握し、再ログインなしで切り替える

他のマルチエージェントツールとの比較

観点 Orca agent-viewer ruflo holaOS Cursor
主目的 並列worktreeでの艦隊管理 tmux内エージェントの可視化 エージェントスウォーム制御 長期作業環境 単一AIアシスタント体験
並列実行モデル git worktree×CLIプロセス tmuxペイン swarm orchestration Workspace単位 単一セッション
対応エージェント数 30+(任意のCLI対応) Claude Code中心 Claude Code/Codex プラグイン式 Cursor独自
デスクトップアプリ あり(Electron) CLIのみ CLIのみ あり(Electron) あり(VS Codeフォーク)
モバイル対応 iOS/Android なし なし なし なし
SSH/リモート ネイティブサポート tmuxで間接対応 設定次第 リモート設計あり リモート開発機能あり
ライセンス MIT MIT OSS Modified Apache 2.0 プロプライエタリ
サブスクリプションモデル BYOS(既存契約利用) BYOS BYOS BYOS 月額課金

Orcaの差別化は3つ。worktreeをエージェント割り当ての単位として設計の中心に置いたこと、iOS/Android両対応のモバイルアプリを公式に持つこと、30ベンダー以上を等価に扱う中立性だ。一方でOrcaはIDE層で、エージェントの推論ロジック・プロンプト・スキル管理は範囲外にある。長期メモリが要るならholaOS、複雑な役割分担を組むならrufloのようなスウォーム基盤と組み合わせる方が筋がいい。

開発速度と、実運用で押さえる制約

2026年7月31日時点のリリースを見ると、同じ2026-07-30に v1.4.192 v1.4.192-rc.1 v1.4.192-rc.0 が並び、リリースノートのPR番号は #11,326 / #11,271 / #11,247 / #11,074 / #11,062 と11,000番台に達していた。公開から約4か月半で1万件超のPRが積まれた計算になる。直近の修正はモバイルのスクロールやタブ重複、WindowsのPATH再読み込みなど、モバイル周りの作り込みが厚い。

GROWTHスターの推移

公開から約5か月半で★57,338

GitHub スター

  1. 2500公開当初
  2. 108007月上旬
  3. 338107/31
  4. 573388/31
出典: github.com/stablyai/orca を本記事の各更新時に記録(公開当初・7月上旬は約)。リポジトリ公開は2026-03-17

並列worktreeが実際にどこに作られているかは、Git側から直接見える。

# Orcaが作った並列ワークツリーの一覧と、それぞれのブランチを確認する
git worktree list

# 使われなくなったワークツリーの登録を掃除する(ディレクトリを消しただけでは残る)
git worktree prune -v

向いているのは、Claude Code・Codex・Grokの契約をすでに持ち複数機能を同時に進めたいソロ開発者、エージェントを横並びで比較したいR&Dチーム、移動中も進捗を追いたいリモートワーカー、複数リポジトリを横断するチームだ。向かないのは、単一アシスタントで足りる小規模プロジェクト、Electronアプリの更新や一部機能が制約を受けうる厳格なネットワーク隔離環境やエアギャップ環境、CLIエージェントに慣れていない組織である。導入は、まず1〜2個のエージェントでworktreeを2本切り、worktreeの感覚に慣れてから数を増やすのがよい。

BEFORE YOU SCALE並列にする前に

エージェントを増やす前に、この4つを決めておく

  1. 1.ディスク

    worktree ごとに作業ディレクトリ。本数に比例して増える

  2. 2.レート制限

    同じアカウントなら別 worktree でも上限は共有

  3. 3.レビューの量

    diff がエージェントの数だけ届く。品質責任は人に残る

  4. 4.バージョン固定

    日次リリース。チームではタグを揃えて配る

セキュリティ観点での確認事項

  • ・BYOS設計なので、各CLIエージェントの認証情報(APIキー・OAuthトークン)はローカルマシン側で管理される
  • ・SSHワークツリーを使うなら、リモートサーバー側のSSHキー・権限管理を別途整える
  • ・モバイルとデスクトップの通信経路、匿名利用データの収集とオプトアウトは公式のprivacy & telemetryドキュメント(onorca.dev/docs/telemetry)で確認する
  • ・本記事のようなサードパーティ解説はこの開発速度では必ず後れを取る。UIの位置や機能名は導入時点の実物で確かめてほしい

参照ソース

  • stablyai/orca — GitHub — 公式リポジトリ。READMEに対応エージェント一覧・機能デモGIF・インストール手順が網羅されている。本記事のFV/セクション画像はこのREADMEの公式feature-wall素材を引用した。
  • Orca — onorca.dev — 公式サイト。デスクトップアプリのダウンロードリンクと、各機能の詳細ドキュメント(worktrees, terminal, design-mode, ssh, agents/supported など)が用意されている。
  • Orca Releases(チェンジログ) — 「毎日出荷する」Orcaの事実上の最新機能一覧。新機能の追加状況はここで確認できる。
  • Orca日本語版README — 公式日本語ドキュメント。「100xビルダーのためのAIオーケストレーター」というポジショニングが日本語で明示されている。
  • Stably AI (Orca) — Y Combinator — 開発元Stably AIの企業プロフィール。「MIT open source terminal-based agent orchestrator」というプロダクト説明が確認できる。