google maps scraper を探すと上位に出てくる omkarcloud/google-maps-scraper は、GitHubスター3,372を集めるリポジトリです。名前のとおりGoogle Mapsから店舗情報を集めるツールだろうと思って git clone したのですが、ソースコードが1ファイルもありませんでした

この記事は、そのリポジトリの正体を確かめた記録です。あわせて、Google Mapsのデータを集めたい場合に先に確認しておくべき規約・法令面の論点と、公式の手段についても整理します。

omkarcloud/google-maps-scraperをcloneして中身を数えた結果。PNG 77枚・GIF 4枚・マークダウン6本で、pyやjsのソースファイルは0
実際にcloneして拡張子ごとに数えた結果。実行できるコードは含まれていない

30秒でわかる google-maps-scraper

リポジトリの中身:PNG 77枚・GIF 4枚・マークダウン6本・LICENSE・.gitignore。.py / .js / .ts は0ファイル
製品の実体:omkar.cloud と Amazon S3 から配布されるクローズドなデスクトップアプリ(mac / Windows / Linux)
MITが覆う範囲:リポジトリに入っている説明資料。製品本体のソースは公開されていない
この記事で試していないこと:Googleへのアクセスを発生させないため、アプリのダウンロードも実行もしていません

この記事のポイント

・star 3,372でも、実行できるコードが入っているとは限らない。cloneして拡張子を数えれば1コマンドで分かる
・「GitHubのライセンスバッジがMIT」と「製品を自由に使える」は別の話
・Google Mapsのデータ収集には規約・個人情報の論点がある。公式のPlaces APIという選択肢を先に検討する価値がある

データ収集や自動化ツール全般の見取り図はAI自動化ツール|ノーコードからコードまで2026年版の比較と選び方にまとめてあります。

google maps scraper のリポジトリの中身を数える

まず事実確認です。次のコマンドは実際に実行しています。

# 浅いcloneで中身だけ確認する
git clone --depth 1 https://github.com/omkarcloud/google-maps-scraper.git gms
cd gms

# 拡張子ごとにファイル数を数える
find . -path ./.git -prune -o -type f -print | sed 's/.*\.//' | sort | uniq -c | sort -rn

# 実行できるコードが入っているか
find . -path ./.git -prune -o \( -name '*.py' -o -name '*.js' -o -name '*.ts' \) -print | wc -l

結果は次のとおりでした。

拡張子 ファイル数
.png 77
.md 6
.gif 4
.svg / .jpg / .gitignore / LICENSE 各1
.py / .js / .ts 0

マークダウン6本の内訳は README.md(314行)・advanced.md(441行)・fields.md(181行)・SECURITY.md(22行)などで、合計958行。説明資料のリポジトリです。

star数は「実体があること」を保証しない:3,372という数字は製品への関心を示していますが、リポジトリにコードが入っているかどうかとは無関係です。GitHubで見つけたツールを評価するときは、star数やREADMEの見栄えより先に、上のように拡張子を数えるほうが確実です。1コマンドで済みます。

数える前に、メタ情報も1回で取れる

リポジトリの素性は gh コマンドでまとめて確認できます。これも実行して結果を確認しました。

# star数・ライセンス・最終push をまとめて見る
gh api repos/omkarcloud/google-maps-scraper \
  --jq '{stars:.stargazers_count, license:.license.spdx_id, pushed:.pushed_at}'
# => {"license":"MIT","pushed":"2026-07-27T05:22:58Z","stars":3372}

# ルート直下のファイル一覧(ディレクトリを除く)
gh api repos/omkarcloud/google-maps-scraper/contents \
  --jq '[.[]|select(.type=="file")|.name] | join(" ")'
# => .DS_Store .gitignore LICENSE README.md SECURITY.md advanced.md
#    fields.md server-deployment.md video-script.md

2つ目の出力を見た時点で気づけます。ルート直下に .mdLICENSE しか無い——package.jsonrequirements.txtpyproject.toml も、パッケージの入口になるファイルが1つもありません。cloneする前でも判断できる材料です。

なお star 数は計測時点の値です(本記事は2026年9月2日に3,372を確認しています)。日々増えるため、読む時点では違う数字になっているはずです。

google maps scraper の製品本体はどこにあるのか

READMEを読むと導線がはっきりします。omkar.cloud とAmazon S3から配布されるデスクトップアプリでした。

対象OS 配布形式 配布元
macOS インストーラ omkar.cloud/l/mac
Windows インストーラ omkar.cloud/l/win
Linux(Debian系) .deb(amd64 / arm64) S3バケット
Linux(RedHat系) .rpm(x86_64 / aarch64) S3バケット

配布URLが生きているかだけ確認しました(アプリのダウンロードはしていません)。

# ヘッダだけ取得して到達性を見る(本体はダウンロードしない)
curl -sI -L "https://www.omkar.cloud/l/mac" | head -1
curl -sI -L "https://google-maps-extractor-omkar-cloud.s3.amazonaws.com/Google+Maps+Extractor-amd64.deb" | head -1

いずれも HTTP 200 を返しました。配布は現役です。READMEには動作要件としてGoogle Chromeのインストールが必要と書かれており、ブラウザを自動操作する方式であることがうかがえます。

課金面では、READMEが月200検索までの無料枠を掲げ、1検索あたり100〜1,000件以上の結果が得られると説明しています。ApifyやOutscraperを名指しして無料枠の大きさを比較する構成です。実際の課金体系と上限は配布元で確認してください。

同じ「配布バイナリを信じるかどうか」の問題でも、ソースが公開されていれば登録簿を数えたり通信を測ったりして裏を取れます。たとえばSentruxとは|コード構造を測るRust製センサーを、開発停止後の凍結版として評価するでは、公式バイナリを実行して既定の通信挙動まで確認できました。このツールではそれができません。

重要なのは、ソースが公開されていない以上、アプリが内部で何をしているかを外から検証できない点です。 収集したデータをどこへ送るか、認証情報をどう扱うかも含めて、通常のOSSと同じ基準では評価できません。

MITライセンスが覆っている範囲

リポジトリの LICENSE は21行の標準的なMITで、Copyright (c) 2023-2024 Chetan Jain と記載されています。追加条件はありません。

ただしMITが適用されるのはそのリポジトリに含まれる著作物——つまり説明資料と画像です。前述のとおり製品のソースコードはリポジトリに入っていないので、配布されるアプリ本体はMITの対象外と読むのが自然です。アプリの利用条件は配布元の規約に従うことになります。

GitHubのライセンス表示は「リポジトリの中身」に対する表示です:GitHubはリポジトリ内のLICENSEファイルを読んでバッジを出しているだけで、その組織が配布する別の成果物まで保証しません。「バッジがMIT=製品も自由に使える」ではないという切り分けは、この種の「ドキュメントだけのリポジトリ」で特に重要になります。

Google Mapsのデータ収集で先に確認すべきこと

ここからはツールの話を離れて、そもそもこの種のデータ収集を行ってよいかという論点です。

規約の観点:Googleの利用規約は、サービス上のコンテンツを自動的に収集したり、取得したデータを再配布したりすることを制限しています。ツールの側が「できる」ことと、規約上「してよい」ことは別です。ツールを選ぶ前に、自分の用途が規約の範囲内かを確認する必要があります。

個人情報の観点:店舗情報には、屋号だけでなく個人事業主の氏名・電話番号・メールアドレスが含まれることがあります。これらは個人情報にあたり得るため、取得・保管・利用の各段階で個人情報保護法の要件を検討することになります。営業リストとして第三者へ渡す場合は、提供の適法性も別途論点になります。

技術的な負荷の観点:短時間に大量のリクエストを送る行為は、相手のサービスに負荷をかけます。件数と頻度を抑えるのは、規約以前のマナーです。

この記事は法的助言ではありません:上に挙げたのは「確認すべき論点」であって、個別の可否の判断ではありません。業務として実施するなら、対象データ・利用目的・保管方法・提供先を整理したうえで、弁護士等の専門家に確認してください。本記事の筆者はこのツールを実行しておらず、特定の用途が適法であると述べるものでもありません。

公式の手段:Google Maps Platform の Places API

規約面の不確実性を避けたいなら、公式APIが素直な選択肢です。両者は性質がかなり違います。

  スクレイパー製品 Places API(公式)
提供元 第三者(クローズドソース) Google
規約上の位置づけ 利用規約との関係を自分で確認する必要がある 明文化された利用条件の範囲内
費用 無料枠+有料プラン 従量課金
取得できる項目 製品の仕様次第 ドキュメントに定義された項目
再配布・保存 製品側の説明に依存 条件が文書化されている(キャッシュ期間等)
中身の検証 ソース非公開のため不可 APIの応答として明確
大量取得 製品の売りとして訴求 費用が比例して増える

「安く大量に」が要件ならスクレイパー製品が候補に上がり、「規約と条件が明確であること」が要件なら公式API、という分かれ方になります。実務では後者を検討したうえで、費用が見合わないと分かってから代替を探す順序が安全です。

なお、営業リストの作成そのものが目的なら、Google Mapsに限らず公開されている事業者データベースや、提供元が明示的に利用を認めているデータセットを先に当たる価値があります。データの出所が説明できることは、後々の運用コストを大きく下げます。

結局これは何だったのか

整理します。

flowchart TD A["Google Mapsのデータが欲しい"] --> B{"規約と条件が
明確であることは必須か"} B -->|"必須"| C["Places API(公式)
従量課金・条件は文書化"] B -->|"費用優先"| D{"中身を検証できない
製品を業務で使えるか"} D -->|"使えない"| C D -->|"社内判断で可"| E["配布バイナリの製品
規約・個人情報は自分で確認"] E --> F["専門家に可否を確認してから実施"]

omkarcloud/google-maps-scraper は、star 3,372を集める説明資料のリポジトリである
・製品の実体は omkar.cloud とS3から配布されるクローズドなデスクトップアプリで、ソースは公開されていない
・MITライセンスが覆うのはリポジトリ内の説明資料であって、製品本体ではない
・Google Mapsのデータ収集には規約・個人情報・負荷の3つの論点があり、業務で行うなら専門家への確認が必要である
・規約面の明確さを優先するなら Places API が公式の手段になる

「OSSのスクレイパーを探していたら、実はクローズドな製品のランディングページだった」というのが結論です。GitHubで見つけた道具は、star数やREADMEの完成度ではなく、中身を数えてから評価する——今回の一番の教訓はそこにあります。同じ観点で「READMEの数字を登録簿から数え直す」やり方はCertimateとは|SSL証明書の発行・配置・更新を自動化するセルフホストACMEツールを実測でも使っています。

参照ソース

omkarcloud/google-maps-scraper — GitHub リポジトリ(README・LICENSE・ファイル構成。本記事のファイル数はここをcloneして数えたもの)
Google Maps Platform — Places API(公式APIの仕様・利用条件)
Google 利用規約(自動収集・再配布に関する条項)
個人情報保護委員会(個人情報の取得・利用・第三者提供の考え方)