「AIエージェントを科学研究に使う」と言ったとき、実務で詰まるのはモデルの賢さではなく、その分野のライブラリとデータベースをエージェントが正しく叩けるかだ。Scientific Agent Skills は、その手順書を163本ぶんまとめて配っているリポジトリで、GitHub star は 40,304(2026-08-31 時点)に達している。ただし「全部入れる」を選ぶ前に測っておくべき数字がいくつかある。

Scientific Agent Skills の実測サマリ。163本のSKILL.md、説明文の常駐コスト14,972トークン、1本あたり91.9トークン、ライセンス表記28通りという数値をまとめた図
163本のSKILL.mdを全取得して数え直した結果(2026-08-31 実測)

30秒でわかる Scientific Agent Skills

・科学研究向けの Agent Skills を163本まとめた MIT ライセンスのリポジトリ(★40,304・K-Dense 提供)
スキル数は実測163本。README の記載とも一致するが、GitHub の説明文だけ「165」のまま残っている
全部入れると説明文だけで cl100k_base 14,972 トークン/count_tokens 25,441 トークンが毎セッション常駐する
・1本あたり 91.9 トークン(cl100k_base)。汎用スキル集を同じ物差しで測った 40.7/38.6 の約2.3倍
・リポジトリは MIT だが、SKILL.md 個別の license: は28通りに割れ、非商用・GPL・Proprietary 表記が10本ある

Claude Skills そのものの仕組みから確認したい場合は、Claude Code|2026年版・インストールからCLAUDE.md・Hooks・本番運用までの実装手引きに全体像がまとまっている。本記事はその上で「特定分野のスキルを大量に入れるとどうなるか」を実測する。

この記事のポイント

・スキル数・常駐コスト・ライセンス分布を、READMEの記載ではなく163本のSKILL.mdから数え直した
・同梱のセキュリティスキャン結果は「自動出力+人手の triage」の2段構えで、読むべきは後者
・「全部入れる」より「分野で絞る」がリポジトリ自身の推奨。その根拠になる数字を出した

Scientific Agent Skillsとは——163本の分野別手順書

Agent Skills は SKILL.md 1枚(+任意の scripts/references/)を1つのフォルダに置くだけの、ホスト非依存の拡張形式だ。Scientific Agent Skills はこの形式で、生物・化学・医学・材料・宇宙・量子計算などの領域を1本ずつカバーしている。

構造はきれいにフラットで、skills/<名前>/SKILL.md が163本、それ以外の場所に SKILL.md は1本もない。手元で数えるならこれだけで足りる。

git clone --depth 1 https://github.com/K-Dense-AI/scientific-agent-skills.git
cd scientific-agent-skills
find skills -maxdepth 2 -name SKILL.md | wc -l
# =>      163

中身の傾向を挙げると、rdkitscanpybiopythonqiskitpymatgen のようなPythonパッケージの使い方depmapprimekgimaging-data-commons のような公開データベースへのアクセスliterature-reviewpeer-reviewresearch-grants のような研究作業そのものの3系統に大きく分かれる。README は「78の公開データベースへ決定論的にアクセスする統合スキル database-lookup がある」と書いており、bioservices(約40サービス)・biopython(Entrez 経由39サブDB)・gget(20以上)を合わせて「100+ データベース」と表現している。

系統 何をしてくれるか
Pythonパッケージ rdkit scanpy qiskit pymatgen バージョンを踏まえた正しい API の呼び方を提示
公開データベース database-lookup depmap primekg 出典つきで決定論的に引く手順を提示
研究作業 literature-review peer-review experimental-design 手順そのものをエージェントに実行させる
ドキュメント生成 latex-posters scientific-slides pptx-posters 論文・ポスター・スライドの体裁を作る

実測①:スキル数は163本、GitHubの説明文だけ165のまま

リポジトリ説明文(About 欄)は「165 ready-to-use validated skills」と書いているが、実体は163本だった。README 側は badge(Skills-163)・本文2か所・引用用 BibTeX の note まですべて163で一致しているので、ずれているのは GitHub の About 欄だけだ。

数字がずれること自体は運用の速さの裏返しでもある。plugin.json のバージョンは 2.65.0、当日もコミットが入っている。ただ、About 欄は検索結果やSNSカードに出る面なので、外向きの数字と実体が食い違っている状態は把握しておいたほうがよい。

ライセンス表記の内訳図。MIT系99本、Apache-2.0系19本、BSD系18本、Proprietary表記5本、なし4本、GPL系3本、CC系2本、PolyForm非商用1本
163本のSKILL.mdが宣言する license: の内訳(表記ゆれを正規化して集計・2026-08-31 実測)

Scientific Agent Skills の実測②:163本を全部入れると常駐コストはいくらか

Agent Skills は、本文(SKILL.md の中身)はスキルが呼ばれたときに読まれるが、namedescription は「どのスキルを呼ぶか」を判断するために毎セッション常駐する。つまり入れた本数ぶんだけ固定費が乗る。

163本すべての frontmatter を取得し、name: Xdescription: Y を連結した文字列を測った結果が下の表だ。これは当サイトが他のスキル集にも当てている物差しと同じ定義なので、そのまま横並びにできる。

スキル集 本数 ペイロード cl100k_base 1本あたり
Scientific Agent Skills 163 71,106 B 14,972 91.9
Skills Hub の Explore カタログ 280 55,370 B 11,388 40.7
mattpocock/skills 37 1,428 38.6

1本あたり 91.9 トークンは、汎用スキル集の約2.3倍にあたる。理由は description を読めばすぐ分かる。科学スキルの説明文は「いつ発火すべきか」を分野語彙で細かく列挙する必要があるからだ。たとえば adaptyv の description は、Adaptyv Bio の Foundry API・タンパク質結合アッセイ・BLI/SPR アッセイ・熱安定性アッセイといった発火条件に加えて、adaptyv_sdkFoundryClient を import したときにも発火せよ、と書いている。汎用スキルの「PDFを扱うとき」に比べて、書くべきトリガーの数が桁違いに多い。

Anthropic の count_tokens(モデル claude-sonnet-5)で同じペイロードを測ると 25,441 トークンだった。cl100k_base 比で1.70倍で、当サイトがこれまで MCP のツール定義で観測してきた1.35〜1.65倍の帯よりやや上に出ている。同日に同じ手順で測った素の英語文(約20 KB)でも1.80倍だったので、科学用語のせいというより、この2つのトークナイザの差そのものが英語散文で大きく出ると読むのが妥当だ。いずれにせよ数字を引用するときはトークナイザ名を併記しないと比較できない。

上位と下位の差も大きい。もっとも重い analytical-method-validation は単体で296トークン、もっとも軽い primekg は35トークンで、8.5倍の開きがある。

重い順 トークン 軽い順 トークン
analytical-method-validation 296 primekg 35
pkpd-modeling 278 geopandas 37
pathogen-variant-surveillance 260 cobrapy 41
pathway-enrichment 245 pytdc 45
genomic-coordinates 228 esm 45

手元で概算するだけなら、クローン後に次のワンライナーで足りる。frontmatter の生行をそのまま数えるので上の実測値(71,106 B)と1%ほどずれるが、桁を掴むには十分だ。

awk 'FNR==1{n=0} /^---$/{n++; next} n==1 && /^(name|description):/{print}' skills/*/SKILL.md | wc -c
# =>    70150

なお163本すべてを確認したが、disable-model-invocation を宣言しているスキルは1本もなかった。つまり全163本がモデルから自動起動される対象で、description を常駐させないという逃げ道は用意されていない。減らしたければ入れる本数を減らすしかない。

README自身が「全部入れるな」と書いている

README のフォーマット解説の末尾に、「163スキルは相当な量の常駐コンテキストになるので、コレクション全体ではなく話題を絞った部分集合の導入を検討せよ」という一文がある。上の実測値は、その助言に具体的な金額をつけたものだと考えるとよい。分野で絞れば固定費は本数に比例して落ちる。

実測③:リポジトリはMITだが、個別スキルの license 欄は28通り

リポジトリ直下の LICENSE.md は MIT、plugin.jsonlicense も MIT だ。しかし SKILL.md 個別の license: 欄を集計すると、表記は28通りに割れていた。

正規化後 本数 内訳の例
MIT 系 99 MIT / MIT license / MIT License の3表記
Apache-2.0 系 20 Apache-2.0 / Apache-2.0 license ほか
BSD 系 18 BSD-3-Clause / 3-clause BSD license ほか
Proprietary 表記 5 Proprietary. LICENSE.txt has complete terms ほか
(キー自体なし) 4 hugging-science infographics latex-posters pyhealth
GPL 系 3 GPLv3 license / GPL-2.0 license / GPL-3.0-or-later
CC 系・非商用 3 CC-BY-4.0 / CC BY-NC-SA 4.0 ほか
PolyForm 非商用 1 PolyForm-Noncommercial-1.0.0
その他(URL直書き等) 10 ライセンス本文へのURLをそのまま記載

重要なのは、多くが「そのスキルが叩く上流ライブラリのライセンス」を書いた欄だという点だ。bioservicesGPLv3 license は BioServices というPythonパッケージ側の条件であって、スキル本体がGPLになるわけではない。一方で what-if-oracle は第三者リポジトリから移植されたスキルで、upstream: に元リポジトリのURLと研究DOIが記録されており、CC BY-NC-SA 4.0 はスキル本体の配布条件を指していると読むのが自然だ。deepspot-m に至っては compatibility 欄が「Hugging Face 上の重みは gated かつ CC-BY-NC-SA-4.0」と明示している。

商用利用なら「全部入れる」前に個別確認を

GitHub のライセンスバッジは MIT を示すが、それはリポジトリ直下の LICENSE.md の話でしかない。非商用条件を宣言しているスキル(deepspot-m の PolyForm-Noncommercial、what-if-oracle の CC BY-NC-SA)と、上流が Proprietary と書かれているスキルが混ざっている。npx skills add で丸ごと入れると、これらも一緒に入る。

同梱のセキュリティスキャンと triage の読み方

このリポジトリは珍しいことに、自分のスキルを機械スキャンした結果を同梱しているdocs/security-report.md は 2026-08-31 09:27 UTC 生成で、163本をスキャンし findings 988件、CRITICAL 34・HIGH 9、Safe 判定は 147/163 と書かれている。

数字だけ見ると不穏だが、レポート冒頭とその隣の docs/security-triage.md を読むと構図が変わる。triage の書き出しはこうだ——レポートは事前の妥当性チェックなしに自動公開されるので、findings はそのスキルを見直すきっかけであって判定ではない。だから triage 側で、どれを検証し、何を直し、どれが系統的な誤検知かを記録している、と。

セキュリティ情報の2段構え。自動スキャン結果はCRITICAL 34件・HIGH 9件を含む988 findings、triage側は40件を全件検証して誤検知と整理し、別に実在した7件を修正済みと記録している
自動スキャンの生出力(左)と人手の検証記録(右)。読むべきは右(2026-08-31 時点)

実際 triage は 2026-07-27 時点のスキャン(154スキル・817 findings・CRITICAL 33/HIGH 8)を対象に、CRITICAL/HIGH 40件すべてを4つの誤検知クラスへ分類したうえで、それとは別に実在した問題を7件、根拠つきで修正記録として残している。修正のいくつかは素直に読み応えがある。

スキル 実際に何が問題だったか
xlsx docx pptx LibreOffice 用のシムを /tmp/lo_socket_shim.so という固定パスに作り、既にあれば再利用していた。共有ホストでは他ユーザが先に置いた .soLD_PRELOAD される。tempfile.mkdtemp() の 0700 ディレクトリへ変更
imaging-data-commons 起動時のバージョン確認が無確認で pip3 install --break-system-packages を実行していた。報告のみに変更し、インストールは版固定+仮想環境の案内へ
pacsomatic 生成する起動スクリプトで --module-load の値だけ shlex.quote() を通していなかった。入力時に検証・再クォートするよう修正
autoskill 設定ファイルの foundry.endpoint を検証せず httpx に渡していた。画面OCR由来の要約が任意URLへ送れた。スキーム検証と宛先ホストの表示を追加
hugging-science 外部カタログの説明文をそのままエージェントの文脈へ出力していた(プロンプトインジェクション経路)。untrusted バナー付与とコードフェンス無害化を追加
liteparse description に「liteparse と名指しされなくても発火せよ」「MarkItDown より優先せよ」と書かれていた=兄弟スキルの起動を横取りする指示。事実ベースの記述へ書き直し

最後の liteparse は、スキルを大量導入する運用そのものに効く教訓だ。description は常駐するだけでなくどのスキルが呼ばれるかを決めるので、そこに優先度の主張を書き込むと他のスキルを黙って押しのけられる。導入前に description を読む理由がひとつ増える。

なお triage が対象にしたのは 7月27日のスキャンで、当日(8月31日)のレポートは CRITICAL 34・HIGH 9 と1件ずつ増えている。triage されていない差分がある点は押さえておきたい。

frontmatter から読み取れる運用の実態

163本の frontmatter に現れるキーを集計すると、このコレクションがどう運用されているかが見えてくる。

キー 出現本数 何が分かるか
name / description 163 / 163 全本が必須欄を満たしている
metadata.version 163 全本が版管理されている(1.1 が55本で最多、2.x は24本)
metadata.skill-author 159 著者記録あり。K-Dense 自社と外部寄稿が混在
license 159 4本は欄そのものが無い
compatibility 116 Python の要求版・APIキー要否・GPU要否などを自由文で記述
allowed-tools 100 宣言があるのは 100 本。うち 94 本が Bash を含む

注目すべきは allowed-tools だ。宣言があるのは163本中100本で、残りの63本は許可ツールを絞っていない。宣言している100本のうち94本は Bash を含んでおり、最頻の組み合わせは Read Write Edit Bash(62本)だった。科学スキルの多くが uv でPython環境を作り、スクリプトを実行することを前提にしているので当然ではあるが、「スキルを入れる=シェル実行を許す手順書を入れる」という理解でいたほうがよい。

compatibility 欄も実務的だ。たとえば deepspot-m は「PyPI の deepspotm 1.0.0(Python 3.10〜3.13)と PyTorch が必要。Hugging Face 上の重みは gated で CC-BY-NC-SA-4.0 なのでモデルページで access を申請し huggingface-cli login すること。CUDA GPU があるとバッチ推論が速い」とまで書いている。この欄を読まずに入れると「スキルはあるのに動かない」になるので、導入候補を絞る段階で必ず目を通す価値がある。

インストール方法は3経路ある

READMEは3つの導入経路を示している。どれもホスト側の対応状況に依存するので、公式ドキュメントで自分のホストの挙動を確認してから使うのが安全だ。

# 1) 標準インストーラ(Claude Code / Codex / Gemini CLI / Cursor 等)
npx skills add K-Dense-AI/scientific-agent-skills

# 2) GitHub CLI(v2.90.0以降)— スキル単位・ホスト指定・版固定ができる
gh skill install K-Dense-AI/scientific-agent-skills scanpy
gh skill install K-Dense-AI/scientific-agent-skills --pin v2.65.0

# 3) Agent Plugins パッケージとして(Cursor の例)
mkdir -p ~/.cursor/plugins/local
ln -s "$(pwd)" ~/.cursor/plugins/local/scientific-agent-skills

常駐コストの話をふまえると、現実的な既定は経路2のスキル単位インストールになる。gh skill install <repo> <スキル名> で必要な1本だけを入れられ、--pin でタグやコミットSHAに固定でき、導入元の provenance も記録される。単一分野しか触らないなら、163本のうち実際に使うのは数本のはずだ。

スキルの配布・同期そのものを管理したい場合は、skills-hubとは|Agent Skillsを47ツールへ同期するデスクトップアプリを実測qvr(quiver)とは|エージェントスキルにlockfileと監査を持ち込むGo製パッケージマネージャを実測のような専用ツールもある。本リポジトリは「配る中身」の側なので、これらとは競合しない。

他のスキル集とどう違うか

flowchart TD A["163本を全部入れる"] --> B["常駐 14,972 トークン
cl100k_base"] A --> C["非商用ライセンスも同梱"] D["分野で絞って入れる"] --> E["常駐は本数に比例して減る"] D --> F["description を1本ずつ読める"] B --> G["毎ターンの固定費として効く"] E --> G C --> H["商用利用は個別確認が必要"] F --> H
  Scientific Agent Skills 汎用スキル集(例: mattpocock/skills) 公式サンプル(anthropics/skills)
狙い 特定分野の手順書を網羅 書き方・型の提示 標準の参照実装
本数 163 37 20前後
1本あたり常駐 91.9 トークン 38.6 トークン
前提知識 対象分野のドメイン知識 なし なし
全部入れる運用 非推奨(README明記) 現実的 現実的

分野特化のスキル集は「網羅していること」が価値なので、本数が増えるほど常駐コストが上がるというトレードオフから逃げられない。逆に言えば、入れる本数を絞る意思決定さえできれば、網羅性はそのまま在庫としての強みになるgh skill install でスキル単位に入れられるのは、この構造にちょうど合っている。

まとめ

Scientific Agent Skills は、科学研究の周辺ツールをエージェントから叩くための手順書を163本まとめた MIT ライセンスのリポジトリで、star 40,304 は Agent Skills 系では突出している。実測して分かったことは3つだ。

本数は163本。README とは一致するが、GitHub の About 欄だけ「165」のまま残っている
全部入れると説明文だけで cl100k_base 14,972 トークン/count_tokens 25,441 トークンが毎セッション常駐する。1本あたり91.9トークンは汎用スキル集の約2.3倍で、README 自身が部分集合の導入を勧めている
リポジトリ表記の MIT で全部が説明できるわけではない。個別 SKILL.md の license 欄には非商用・GPL・Proprietary が混ざっている

セキュリティレポートの CRITICAL 表示は自動スキャンの生出力で、隣の triage が「40件は全て誤検知、別に実在した7件は修正済み」と根拠つきで整理している。この2段構えを公開していること自体は、むしろ運用の質の高さを示している。

参照ソース

K-Dense-AI/scientific-agent-skills — star・README・LICENSE.md・plugin.json の実測元(2026-08-31 参照)
docs/security-report.md — 2026-08-31 09:27 UTC 生成の自動スキャン結果(163本・988 findings)
docs/security-triage.md — findings の検証記録と修正内容の一次ソース
plugin.json — Agent Plugins 1.0.0 パッケージとしての宣言(version 2.65.0)
Agent Skills 標準(agentskills.io) — SKILL.md 形式の仕様
gh skill でエージェントスキルを管理する(GitHub Changelog) — 経路2の一次ソース