AIがコードを書く速度が上がった2026年、ボトルネックはレビューに移った。Pull Requestを開いた瞬間にAIが差分を読み、バグ候補や規約違反を指摘する——その体験はもう珍しくない。

だが本当に効くのは、単発の指摘ではない。「このチームではこう書く」という暗黙知を、レビューのたびに蓄積し、次のPRで自動的に効かせる仕組みだ。Zennやはてなで何度もバズった「AIにレビュー指摘を抽出させ、人間が承認し、チーム標準として定着させる」というアイデアが、まさにそれにあたる。

本記事で扱う Kodus(レビューAIの愛称が Kody) は、そのアイデアをAGPLのOSSとして製品化している。.kody/rules/ のmarkdownでチーム標準をgit管理し、レビュー履歴から自動でルール候補を生成し、人間が承認したものだけを定着させる。一次情報(公式リポジトリとドキュメント)をもとに、構造・書き方・モデル選択・セルフホスト、そしてLEGACY化したPR-Agentとの違いまで整理する。

この記事のポイント
  • Kodus(kodustech/kodus-ai)はAGPL-3.0・TypeScript製のAIコードレビューOSS。1.2k★、Self-Hosted 2.1.17が2026年6月10日リリース
  • チーム標準は .kody/rules/**/*.md のmarkdownでgit管理。AST解析(@kodus/kodus-graph)とLLM推論のハイブリッド
  • レビュー履歴から自動でルール候補を生成→人間が手動インポートするまで有効化されない(抽出→承認→定着が製品仕様)
  • BYOKでClaude/Gemini/GPT-5系/Kimi/GLM、自前Ollama・vLLM・TGIまでOpenAI互換で接続可能。セルフホスト前提
  • PR-Agentは公式が「legacy project of Qodo」と自称。auto best practicesは💎商用限定機能

30秒で理解する Kodus(Kody)

まず結論から。Kodusは「AIにPRをレビューさせる」だけのツールではなく、チームのコーディング標準を時間とともに育てる基盤だ。中身は次の3層で理解するとよい。

AST層@kodus/kodus-graph がリポジトリを構文解析し、関数・クラス・ファイル・import・呼び出し関係をJSONグラフ化する。差分の外にある依存まで踏まえる
LLM層(Kody):そのグラフを文脈にして、BYOKで選んだモデル(Claude・Gemini・GPT-5系・ローカルOllama等)がPRにコメントする
ルール層.kody/rules/ のmarkdownがチーム標準を定義し、git管理される。レビュー履歴からの自動ルール生成で、この層が時間とともに厚くなる

ライセンスはAGPL-3.0、主要言語はTypeScript、★は1.2k(2026年6月時点の公式リポジトリ実測)。GitHub・GitLab・Bitbucket・Azure Reposに対応し、PRネイティブに加えCLI/CI-CDでも動く。

これがなぜ刺さるのか。「レビュー指摘をAIで抽出し、人間が承認し、チーム標準に定着させる」という運用アイデアは、Zennや技術ブログで何度も話題になった。Kodusはそれを自前で組まなくても、OSSとしてそのまま動かせる。サイトのニッチど真ん中——「バズったあのアイデア、実はOSSで動く」を地で行く題材だ。

AIコードレビューの全体地図(商用含む7ツールの比較)は、ピラー記事のAIコードレビューツール比較2026|CodeRabbit・Greptile・Qodo・Bito・Sourcery・Codacyを使い分け解説にまとめてある。本記事はそのなかで「OSS・セルフホスト・学習ループ」に振り切った1本を深掘りする位置づけだ。

Kodus(Kody)とは — OSSのAIコードレビュー基盤

Kodusの公式タグラインは「AI Code Review with Full Control Over Model Choice and Costs」だ。鍵は Full Control——モデル選択とコストを自分の手に残す、という設計思想にある。

多くの商用AIレビューはベンダーのクラウドにコードを送り、モデルもベンダー指定、料金はシート単価+従量クレジットで膨らむ。Kodusは逆を行く。モデルは自分のAPIキー(BYOK)で選び、Kodus側のマークアップはゼロ。インフラもセルフホストできるため、機密コードを外に出さない構成が取れる。

リポジトリ:kodustech/kodus-ai(GitHub)
ライセンス:AGPL-3.0
主要言語:TypeScript(94.1%)
★数:1.2k(公式リポジトリ実測)
最新リリース:Self-Hosted 2.1.17(2026年6月10日)
連携先:GitHub / GitLab / Bitbucket / Azure Repos、PRネイティブ+CLI/CI-CD

そして名前の使い分けに注意したい。KodusはプロダクトとOSSプロジェクトの名前、Kodyはレビューを実行するAIエージェントの愛称だ。チーム標準を記述するルールも「Kody Rules」と呼ばれ、.kody/ ディレクトリに格納される。本記事でも、システム全体を指すときはKodus、レビュー主体を指すときはKodyと書き分ける。

補足:エディションの段階構成 KodusはOSS(セルフホスト)を軸に、機能の上限でCommunity / Teams / Enterpriseが分かれる。たとえばKody RulesはCommunity版で最大10件、Teams/Enterpriseで無制限だ。「まず小さく試す→チームで本格運用」の移行が、同じセルフホスト基盤の上で完結する。

なぜ今このOSSか — 「抽出→承認→定着」がほぼ製品化されている

ここが本記事のいちばん伝えたい点だ。

技術ブログで繰り返しバズってきた運用パターンがある。「Claude(やGPT)にレビューコメントを読ませて、チームの暗黙ルールを抽出させる。人間がそれを承認し、CONVENTIONS.md のような形でリポジトリに定着させ、次のレビューで参照させる」というものだ。手作業のスクリプトとプロンプトで組んだ人も多いだろう。

Kodusは、この抽出→人間承認→定着のループそのものを製品仕様として実装している

抽出:Kodyがチームの過去のレビュー履歴を分析し、繰り返し指摘されるパターンからルール候補を生成する
承認:候補は「提案」状態にとどまる。公式ドキュメントは「生成されたルールは手動でインポートするまで有効にならない」と明記する
定着:人間が選んでインポートしたルールだけが .kody/rules/ のmarkdownになり、git管理され、以降のレビューで強制される

自前で組んだ場合に苦労する「承認ゲートをどこに置くか」「定着先をどう永続化・バージョン管理するか」が、最初から設計に織り込まれている。プロンプトの継ぎはぎではなく、AST解析・ルールスキーマ・同期パイプラインまで含めて動く。だからこそ「バズったあのアイデア、実はOSSで完成品が動いている」と言える。

エージェント設計の観点では、これは「人間をループに残したまま自律性を上げる」典型例だ。AIエージェントの型を体系的に押さえたい人はAIエージェント設計パターンを横断比較した記事も併読すると、Kodyの位置づけが立体的に見える。

アーキテクチャ:AST + LLM推論のハイブリッド

Kodusの強みは、LLMに差分テキストを丸投げしない点にある。構文解析(AST)でコードの構造をグラフ化し、それを文脈としてLLMに渡すハイブリッド構成だ。

中核は @kodus/kodus-graph というCLIツールである。リポジトリをツリーウォークし、関数・クラス・ファイル・import・呼び出し関係を含むJSONグラフを生成する。このグラフのライフサイクルは3段階だ。

初回インデックス:リポジトリ登録時に AstGraphBuild ジョブが走り、デフォルトブランチを解析してPostgresに永続化する
増分更新:PRがデフォルトブランチにマージされると、Webhookが変更ファイルだけ再解析し、差分をキャッシュ済みグラフにマージする
レビュー時:各レビューでキャッシュ済みグラフを読み込み、変更ファイルのみ解析して、エージェントにフォーカスしたサブグラフを渡す

解析は SANDBOX_PROVIDER 設定で隔離実行される。デフォルトの local はworkerコンテナ内でBun+CLIを動かし、強い隔離が必要なら e2b でリモートサンドボックスを立てる。auto は構成に応じてフォールバック、none でグラフ生成自体を止められる。

flowchart TB subgraph Infra["インフラ層(セルフホスト)"] Web["Web App
Next.js"] API["API Service"] Worker["Worker Service"] Hook["Webhooks Service"] PG[("Postgres")] Mongo[("MongoDB")] MQ["RabbitMQ"] end subgraph Engine["解析エンジン"] AST["@kodus/kodus-graph
AST→JSONグラフ"] Sandbox["Sandbox
local / e2b"] end Kody["Kody エージェント
BYOK LLM"] Rules[".kody/rules/
markdownルール"] Hook -->|PR webhook| Worker Worker --> Sandbox --> AST --> PG Worker --> Kody PG -->|フォーカスしたサブグラフ| Kody Rules --> Kody Kody -->|PRコメント| Hook Web --> API --> PG API --> Mongo Worker --> MQ

差分だけを見るレビューは、無関係な箇所への誤検知やコンテキスト不足の指摘を生みやすい。Kodusはグラフ由来の構造情報を渡すことで、「この関数はどこから呼ばれているか」「この変更は他のどのファイルに波及するか」を踏まえた指摘を狙う。AST層が事実を、LLM層が判断を担う役割分担だ。

.kody/rules/ の書き方 — markdownでチーム標準をgit管理

Kody Rulesの実体は、リポジトリに置くただのmarkdownファイルだ。場所は .kody/rules/**/*.md(または rules/**/*.md)。コードと同じリポジトリに同居するので、レビュー基準そのものがPullRequestのレビュー対象になり、変更履歴がgitに残る。これが監査証跡として効く。

ファイルはYAMLフロントマター+本文の構成だ。公式ドキュメントの実例に沿うと、こう書ける。

---
title: "Avoid console.log in production code"
scope: "file"
path: ["src/**/*.ts", "src/**/*.tsx"]
severity_min: "medium"
languages: ["jsts"]
buckets: ["style-conventions"]
enabled: true
---

## Instructions
Check for console.log statements in production TypeScript files.
- Console logs should not appear in production code
- Use proper logging libraries instead
- Allow console.log only in development utilities

## Examples

### Bad example
\`\`\`typescript
function processUser(user: User) {
  console.log('Processing user:', user.id);
  return user.process();
}
\`\`\`

### Good example
\`\`\`typescript
import { logger } from './logger';

function processUser(user: User) {
  logger.info('Processing user:', user.id);
  return user.process();
}
\`\`\`

フロントマターの主なフィールドは次のとおり。

title:ルール名(必須)
scopefile(ファイル単位)か pull-request(PR全体)
path:適用対象のglobパターン配列
severity_minlow / medium / high / critical の最小重大度
languages・buckets・uuid・enabled:対象言語・分類・識別子・有効フラグ(任意)

本文の ## Instructions に何をチェックするかを自然言語で書き、## Examples に良い例/悪い例を添える。LLMはこの良し悪しの対比を強く参照するため、悪い例と良い例をペアで書くほど精度が上がる。

ルールはグローバル→リポジトリ→ディレクトリの順でカスケード(継承)する。共通の全社ルールを上位に、特定リポジトリやサブディレクトリ固有のルールを下位に置ける。同期はPullRequestがクローズされたタイミングで自動的に走り、@kody-sync マーカーで特定ファイルだけ手動同期することもできる。

監査証跡という観点 「なぜこの規約が入ったか」をPRのdiffとレビューコメントで追える。ルールがコードと同じgit履歴に乗るため、規約変更の責任者・理由・日付が自動的に記録される。SlackやWikiに散らばった暗黙ルールを、検証可能な単一ソースに集約できるのが効く。

学習ループ — レビュー履歴から自動生成→人間承認→定着

Kody Rulesは手で書くだけのものではない。Kodyは過去のレビュー履歴を分析して、ルール候補を自動生成する。公式ドキュメントが示すフローはこうだ。

Step 1 分析:レビュー履歴をスキャンし、繰り返されるパターンを特定し、標準を抽出し、提案を生成する
Step 2 確認:「Check Out New Rules」ボタンから提案ルールと説明を閲覧できる。ただし「この時点でルールはまだ有効ではなく、あくまで提案」
Step 3 手動インポート:チームが必要なルールを選び、必要なら編集して適用する。「生成されたルールは手動でインポートするまで有効にならない」
Step 4 強制:インポートされたルールだけがレビューで強制される

ここに「draft(下書き)」「pending(承認待ち)」という明示的なステータス名は使われない。だが実態は ドラフト提示→人間レビュー→定着 そのものだ。AIが勝手にチーム標準を書き換えることはなく、必ず人間の手動インポートというゲートを通る。

flowchart LR PR["過去のPR
レビュー履歴"] --> Scan["Kody: 履歴スキャン
パターン特定・標準抽出"] Scan --> Draft["ルール候補を生成
(提案状態・未有効)"] Draft --> Review{"人間がレビュー
Check Out New Rules"} Review -->|採用+編集| Import["手動インポート"] Review -->|却下| Drop["破棄"] Import --> Commit[".kody/rules/ に定着
git管理・以降強制"] Commit --> Enforce["次のPRレビューで適用"] Enforce -.->|新たな指摘が蓄積| PR

さらにKodusには「Kody Learnings / Memory」や、CLIの「Decision Memory(AIエージェントの判断を構造化ファイルとして永続化)」もある。ルール(明示的な強制基準)とメモリ(学習した好み)を使い分け、チームの作法を多面的に蓄積していく設計だ。ループが一周するたびに .kody/rules/ が厚くなり、レビュー品質が底上げされていく。

セルフホストとモデル選択(OpenAI / Anthropic / Gemini / Ollama)

Kodusはセルフホストを前提に設計されている。導入経路は複数用意されており、規模と運用方針で選べる。

Railwayテンプレート:最短でクラウドに立てる
Docker:自前インフラにコンテナで展開
汎用VM:任意のLinux VMにインストール
ローカルquickstart:手元のマシンで動作確認

モデル選択はBYOK(Bring Your Own Key)方式だ。Kodus側はモデル費用にマークアップを乗せず、自分のAPIキーに対する実費だけで済む。プリセットされた主要プロバイダに加え、手動設定でほぼ何でも繋がる。

プリセット:Anthropic(Claude)・Google(Gemini)・OpenAI(GPT-5系)・Moonshot(Kimi)・Z.ai(GLM)
手動設定:OpenAI・Anthropic・Google・OpenRouter・Novita、その他の任意のOpenAI互換エンドポイント
ローカル/自前:自前のOllama・vLLM・TGIインスタンスを「OpenAI Compatible」プロバイダ経由で利用可能

この「Ollama・vLLM・TGIまで繋がる」点が、機密コードを扱うチームには大きい。レビュー対象のコードを外部APIに一切送らず、社内GPUのローカルモデルで完結できる。クラウド送信が許されない環境でAIレビューを導入したい、というニーズに正面から応える構成だ。ローカルLLM環境の選択肢はLM Studio入門の記事でGUI/CLI両面から整理しているので、推論基盤側の判断はそちらが参考になる。

PR-Agent(qodo-ai)との比較 — OSS版はLEGACY、auto best practicesは商用側

AIコードレビューのOSSというと、まず名前が挙がるのが PR-Agent(qodo-ai/pr-agent) だ。Apache-2.0、11.6k★という草分けで、Kodusより知名度も★も上だ。ではなぜ「今から選ぶならKodus」と言えるのか。一次情報で確認すると、PR-Agentの立ち位置が変わっている。

PR-Agentの公式READMEは、自らを「The Original Open-Source PR Reviewer」と名乗りつつ、「a community-maintained legacy project of Qodo(Qodoのコミュニティ維持のレガシープロジェクト)」 と明記している。長年の開発の末にOSSコミュニティへ寄贈され、後継は商用のQodo(旧Qodo Merge、Qodo 2.0)へと進化した、という構図だ。つまりOSS版はメンテナンスモードに入っている。

決定的なのが「best practices」周りの機能差だ。

OSS版:リポジトリ直下に手書きの best_practices.md を置ける。AIがそれを参照し、違反に「Organization best practice」ラベル付きの指摘を出す。あくまで静的・手書き
商用Qodo Merge(💎):採用された提案を自動追跡し、.pr_agent_accepted_suggestions に集約、そこから .pr_agent_auto_best_practices自動生成する「auto best practices」。これは💎マーク付きの商用限定機能

Qodoのドキュメントでは 💎が「Qodo Merge限定・OSS版にない機能」 を示す。つまり「レビューの蓄積からチーム標準を自動で育てる」という、いちばんおいしい学習ループは、PR-Agentでは商用側にしかない。一方Kodusは、まさにその学習ループ(自動ルール生成)をAGPLのOSSとして提供している。ここが「今から選ぶならKodus」の核心だ。

項目Kodus(kodus-ai)PR-Agent OSSQodo(旧Qodo Merge)商用
ライセンスAGPL-3.0Apache-2.0商用(プロプライエタリ)
★数(実測)1.2k11.6k—(クラウド製品)
位置づけ現役・活発(2.1.17 / 2026-06-10)legacy project of QodoPR-Agentの後継・現行
モデル選択BYOK・Claude/Gemini/GPT/Kimi/GLM/Ollama等OpenAI系中心(自分のキー)マネージド+専有モデル
チーム標準の管理.kody/rules/ markdown(git管理)手書き best_practices.md組織レベルのbest practices
学習ループ(自動生成)○ OSSで提供(手動承認ゲート付き)×(静的のみ)○ auto best practices(💎商用限定)
セルフホスト○(Railway/Docker/VM)○(自前デプロイ)△(Enterpriseでオンプレ等)
推奨用途学習ループをOSS・社内完結で回したいチーム軽量に試す/既存資産がある場合マネージドで手間なく使いたい組織

ポジショニングを図にするとこうなる。横軸を「OSS↔商用」、縦軸を「単発レビュー↔学習ループ」で取ると、Kodusだけが「OSS×学習ループ」の象限に入る。

quadrantChart title AIコードレビューOSS/商用のポジショニング x-axis "OSS" --> "商用" y-axis "単発レビュー" --> "学習ループ" quadrant-1 "商用×学習" quadrant-2 "OSS×学習" quadrant-3 "OSS×単発" quadrant-4 "商用×単発" "Kodus (Kody)": [0.22, 0.82] "PR-Agent OSS": [0.18, 0.28] "Qodo (Merge)": [0.82, 0.85]

念のため補足すると、★数だけ見ればPR-Agentが圧倒的に多い。これは草分けとして積み上げた歴史の差であり、現在の活発さや学習ループの有無とは別の指標だ。「LEGACY表記」「auto best practicesは💎商用限定」は、いずれも筆者の推測ではなく公式の記述で確認した事実である。

「複数リポジトリ横断の中央ナレッジベース」の不足を埋める

Kodusにも弱点はある。ルールはあくまでリポジトリ単位.kody/rules/)で管理される。10も20もリポジトリを持つ組織で、「全社共通のコーディング標準を1か所で管理し、全リポジトリに効かせる」中央ナレッジベースを、Kodus単体では完結できない。

ここは自作レイヤーで埋めるのが現実的だ。発想はシンプルで、共通ルールを1つの中央リポジトリに集約し、各リポジトリへ配布する。配布手段は主に2つある。

git submodule方式:中央リポ(例 org/kody-rules)を各リポジトリの .kody/rules/shared にsubmoduleとして取り込む。git submodule update --remote で最新を引く
同期Action方式:GitHub Actionsで定期的(または中央リポへのpush時)に共通ルールを各リポへコピーしPRを作る。レビューを挟めるぶん、こちらのほうが統制が効く

flowchart TB Central["中央リポジトリ
org/kody-rules
(全社共通ルール)"] subgraph Repos["各プロダクトリポジトリ"] R1["repo-a
.kody/rules/shared + 固有"] R2["repo-b
.kody/rules/shared + 固有"] R3["repo-c
.kody/rules/shared + 固有"] end Central -->|git submodule / 同期Action| R1 Central -->|git submodule / 同期Action| R2 Central -->|git submodule / 同期Action| R3 R1 --> Kody["各リポでKodyがレビュー
共通+固有ルールを適用"] R2 --> Kody R3 --> Kody

ポイントは、中央リポを単一の真実の源(single source of truth)にし、配布だけを自動化することだ。各リポジトリは「共通ルール(submodule/同期)+そのリポ固有ルール」の2層を持つ。Kodyのルール継承(グローバル→リポジトリ→ディレクトリ)と組み合わせれば、全社標準とチーム裁量を両立できる。商用ツールの「組織レベルのナレッジベース」に相当する層を、git運用で自前構築する形だ。

導入してみる:最小構成の手順

最小構成での立ち上げイメージを示す。詳細は必ず公式の how_to_deploy を参照してほしいが、流れはこうだ。

まずローカルで動かす場合、Dockerでオーケストレータを起動し、Git連携とモデルキーを設定する。

# 1. リポジトリを取得
git clone https://github.com/kodustech/kodus-ai.git
cd kodus-ai

# 2. 環境変数を用意(モデルキー・DB・Git連携)
cp .env.example .env
#   .env で BYOK のキーを設定(例)
#   ANTHROPIC_API_KEY=sk-ant-...
#   または OpenAI互換(自前Ollama)
#   OPENAI_COMPATIBLE_BASE_URL=http://localhost:11434/v1

# 3. Docker で起動(Web App / API / Worker / Webhooks)
docker compose up -d

起動後、WebアプリからGitプロバイダ(GitHub等)を接続し、対象リポジトリを選ぶと AstGraphBuild が走ってグラフが構築される。あとは対象リポジトリに最初のルールを置く。

# 4. 最初の Kody Rule を作る
mkdir -p .kody/rules
cat > .kody/rules/no-any.md <<'EOF'
---
title: "Avoid the any type"
scope: "file"
path: ["src/**/*.ts"]
severity_min: "high"
languages: ["jsts"]
enabled: true
---

## Instructions
Flag uses of the `any` type in TypeScript source.
- Prefer explicit types or `unknown` with narrowing.

## Examples

### Bad example
\`\`\`typescript
function parse(input: any) { return input.value; }
\`\`\`

### Good example
\`\`\`typescript
function parse(input: unknown) {
  if (typeof input === "object" && input) return (input as { value: string }).value;
}
\`\`\`
EOF

git add .kody/rules/no-any.md
git commit -m "chore: add first Kody rule"

このルールをpushしてPRを開けば、KodyがASTグラフと .kody/rules/ を文脈にレビューを返す。慣れてきたら自動ルール生成で履歴からの候補を眺め、良いものだけインポートしていけばよい。CI/CDに組み込むなら、PRイベントをWebhookで受ける構成に切り替える。

サンドボックスは既定の local(worker内でBun+CLI)で十分動く。隔離を強めたいときだけ SANDBOX_PROVIDER=e2b に変える、という運用順序がトラブルが少ない。

想定ユースケース(個人〜中規模開発チーム)

Kodusが効く場面を整理する。

機密コードでAIレビューを使いたいチーム:自前Ollama/vLLMでローカル完結。コードを外部APIに送らずにAIレビューを導入できる
規約が暗黙知化しているチーム:レビューでの口頭指摘を自動ルール化し、.kody/rules/ に形式知として定着。新メンバーのオンボーディングが速くなる
モデルコストを自分で握りたいチーム:BYOKでマークアップゼロ。安いモデルで広く回し、重要PRだけ高性能モデルに切り替える運用が自由にできる
個人開発〜OSSメンテナ:Community版(ルール最大10件)で小さく始め、規約をgit管理しながら一貫性を保つ
「バズったアイデアを自前で実装しかけた」人:抽出→承認→定着のスクリプトを自作する前に、完成品としてのKodusを試す価値がある

逆に向かないのは、「とにかく手間なくマネージドで使いたい」ケースだ。セルフホストの運用(Docker/VM、DB、Webhook)を背負いたくないなら、商用のマネージドサービスのほうが合う。Kodusの価値はFull Control——制御を手元に残すことと表裏一体で、運用コストを引き受ける覚悟が前提になる。

まとめ

Kodus(Kody)は、「AIにPRをレビューさせる」段階を一つ越えて、チームのコーディング標準をAST+LLMで育て続ける学習基盤だ。要点を振り返る。

正体:kodustech/kodus-ai、AGPL-3.0、TypeScript、1.2k★、Self-Hosted 2.1.17(2026-06-10)
中身:AST解析(@kodus/kodus-graph)でグラフ化し、BYOKのLLM(Claude/Gemini/GPT/Ollama等)が文脈レビュー
チーム標準.kody/rules/ のmarkdownでgit管理。レビュー履歴から自動生成→手動承認→定着の学習ループが製品仕様
PR-Agent比較:PR-Agentは公式が「legacy project of Qodo」と自称、auto best practicesは💎商用限定。学習ループをOSSで回せるのはKodus
弱点:中央ナレッジベースはリポジトリ単位ゆえ、submodule/同期Actionの自作レイヤーで補う

「レビュー指摘をAIで抽出し、人間が承認し、チーム標準に定着させる」——技術ブログでバズり続けたこの運用アイデアは、もう自前で組まなくていい。AGPLのOSSとして、AST解析からルールスキーマ、承認ゲートまで含めて動く完成品がある。まずはローカルquickstartで立ち上げ、最初の .kody/rules/ を1つ書いてみるところから始めるのがいい。AIコードレビュー全体の選定軸は比較ピラー記事を、AIが書いたコードをレビューする前段の動的ワークフロー設計はClaude Codeの動的ワークフロー解説を併読してほしい。

参照ソース

Kodus公式リポジトリgithub.com/kodustech/kodus-ai(ライセンス・★数・リリース・対応モデル)
Kody Repository Rulesdocs.kodus.io — repository_rules(.kody/rules/ 仕様・frontmatter・実例)
Automatic Rules Generationdocs.kodus.io — kody_rules_generation(学習ループ・手動インポート)
LLMプロバイダdocs.kodus.io — can I use my own LLM provider(BYOK・Ollama/vLLM/TGI)
AST/Sandboxdocs.kodus.io — sandbox(@kodus/kodus-graph・AstGraphBuild)
PR-Agent公式リポジトリgithub.com/qodo-ai/pr-agent(legacy project of Qodo の記述)
Auto best practices(Qodo)qodo-merge-docs.qodo.ai — auto_best_practices(💎商用限定・.pr_agent_auto_best_practices)