WeKnora(Tencent/WeKnora)は、TencentがOSSとして公開したLLMベースのナレッジ基盤。GitHubスターは約28,000・fork約3,800(2026-09-21時点のGitHub表示値)で、最新タグはv0.8.0。単なるRAGのQ&Aツールではなく、ReActエージェントとWiki自動生成を含む3層構成を持つ点が特徴で、本記事ではDockerでの起動確認まで含めて実体を検証する。
- ・正体:Tencentが公開したOSSナレッジ基盤。RAG Q&A・ReActエージェント・自己メンテ型Wikiの3層構成
- ・何ができる:ドキュメントを取り込み、検索可能な知識ベースと改訂履歴付きのMarkdown Wiki(知識グラフ付き)に自動変換できる
- ・実測:
docker compose pull && docker compose up -d(コアサービス5コンテナ)で約2分(イメージ取得込み)、起動後http://localhostがHTTP 200を返すことを確認(2026-09-23・Linux x86_64のサンドボックス環境) - ・注意:ライセンスはMITだが一部同梱コンポーネントに例外あり。LLM APIキー未設定のためQ&A・Wiki自動生成そのものの動作は未検証
この記事ではRAG基盤としてのWeKnoraを解説する。ベクトル検索・ベクトルDB選定などRAG全般の設計はRAGとは?仕組み・構築・ベクトルDB選定までの2026年実装マップにまとめている。
WeKnoraとは——RAG・ReActエージェント・自己メンテWikiの3層構成
WeKnoraはREADMEで「enterprise-grade document understanding, semantic retrieval, and autonomous reasoning」向けのOSSナレッジフレームワークと説明されている。中心となるのは次の3つの能力。
・RAG-based Quick Q&A:知識ベースに対する通常のRAG検索Q&A
・ReAct Agent:検索・MCPツール・スキルカタログ(Docker/E2B/Cubeサンドボックス)・Web検索を自律的に組み合わせて多段タスクをこなすエージェント
・Wiki Mode:エージェントが生ドキュメントを相互リンク付きのMarkdown Wikiに蒸留し、知識グラフ・手動編集・改訂履歴・ワンクリックロールバックまで備える
読者の3つの問い(何ができる/何を解決する/何を代替する)に対する答えは次の通り。
① 何ができる:ドキュメントを検索可能な知識ベースに変換し、RAG Q&A・エージェント・自己メンテWikiの3通りの形で利用できる。 ② 何を解決する:ドキュメントを蓄積するだけで陳腐化していく「死んだ知識ベース」問題を、Wiki自動生成と改訂履歴で継続的にメンテされる状態に近づける。 ③ 何を代替する:単機能のRAGツールと、手動更新のWikiシステム(Confluence運用など)の両方を1つの基盤で肩代わりしうる。
READMEの機能リストには20以上のLLMプロバイダ対応(LiteLLM経由含む)、10種類以上のドキュメント形式対応、Feishu/GitLab/Notion/Yuqueなど複数データソースの自動同期が挙げられている。これらはREADME記載の自己申告値であり、本記事で全項目を動作確認したわけではない。
CHANGELOGを見ると、この3層構成は一度に揃ったわけではなく段階的に積み上げられてきたことが分かる。v0.2.0でReACTベースのエージェントモードが入り、v0.5.0でWiki Modeが正式リリース(GA)、v0.5.2でWiki生成が4万ドキュメント規模の知識ベースまでスケールするようタスクキュー化され、v0.6.0でマルチワークスペースRBACが導入された。直近のv0.7.2でWikiページの改訂履歴(行単位diff+ワンクリックロールバック)が加わり、v0.8.0でスキルサンドボックスランタイムとクロスセッション長期記憶が追加されている。機能の広さだけでなく、追加の順序からも「まずRAGとエージェント、その後にWikiの運用機能を固める」という開発の優先順位が読み取れる。
仕組み——ドキュメントからRAG・エージェント・Wikiへ
PDF/Word/Markdown/Notion等"] --> B["解析・チャンク化
anydoc / OCR / ベクトル化"] B --> C["ベクトルDB
pgvector等・複数対応"] C --> D["RAG Quick Q&A"] C --> E["ReAct Agent
MCPツール/スキルサンドボックス/Web検索"] C --> F["Wiki Mode
知識グラフ+改訂履歴"] E -- "search_knowledge" --> C F -- "手動編集/ロールバック" --> F
Wiki Modeは生ドキュメントをエージェントが要約・相互リンクしてMarkdown Wikiページ群に変換する機能で、CHANGELOGによるとv0.5.0でGA、v0.7.2でページ改訂履歴(行単位diff+ロールバック+ブラウザ内編集)が追加されている。
実測:導入から起動確認まで(Linux x86_64)
READMEのクイックスタートに従い、コアサービス(frontend / app / postgres / docreader / redis の5コンテナ)をDocker Composeで起動した。
git clone https://github.com/Tencent/WeKnora.git
cd WeKnora
cp .env.example .env # DB・認証キー等は既定値が入っている。LLMプロバイダのAPIキーは未設定のまま起動
docker compose pull # イメージ取得(数百MB級のイメージを含む)
docker compose up -d # コアサービスを起動
docker compose ps # 5コンテナが healthy/Up になっているか確認
curl -s -o /dev/null -w "%{http_code}\n" http://localhost/ # Web UIの応答確認
検証環境:Linux(x86_64)サンドボックス/2026-09-23。docker compose pull && docker compose up -d(コアプロファイル・5コンテナ)は合計約2分(イメージ取得込み。実測 1分59秒)で完了し、postgres/docreader/appは起動から数十秒でhealthyになった。起動後 http://localhost はHTTP 200を返した。
未検証の範囲:LLMプロバイダのAPIキーを設定していないため、実際のQ&A応答・Wiki自動生成・ReActエージェントの動作そのものは確認できていない。full/neo4j/minio/langfuse プロファイルの追加サービスも未検証。
既定の docker compose up -d ではコア5コンテナのみが立ち上がる構成になっており、Neo4jによる知識グラフやMinIOオブジェクトストレージ、Langfuseトレーシングは別プロファイルとして明示的に有効化する設計になっている。
| プロファイル | 追加される機能 | 起動コマンド |
|---|---|---|
| (既定) | コアサービスのみ | docker compose pull && docker compose up -d |
full |
全機能を有効化 | docker compose --profile full up -d |
neo4j |
知識グラフ用Neo4j | docker compose --profile neo4j up -d |
minio |
オブジェクトストレージMinIO | docker compose --profile minio up -d |
langfuse |
Langfuseトレーシング | docker compose --profile langfuse up -d |
この設計だと、まずコア構成で動作確認してから必要な機能だけ追加プロファイルで有効化する、という段階的な導入がしやすい。本記事で検証したのはコア構成のみで、上記プロファイルの追加サービスは未検証。
WeKnoraにはAPI操作用の公式CLI weknora も同梱されている。READMEの使用例では weknora profile add prod --host <URL> --use でプロファイルを登録し、weknora auth login → weknora kb list → weknora doc upload notes.md のようにドキュメント登録までコマンドラインで完結できる。ヘッドレス/CI環境向けには WEKNORA_API_KEY と WEKNORA_HOST の環境変数だけで認証をスキップする運用にも対応する(README記載、本記事のCLI自体の動作は未検証)。
主な機能——エージェントとエンタープライズ運用機能
READMEの機能一覧より、日本の読者に関係が深い項目を抜き出す。
・スキルサンドボックス:ClawHub/SkillHub/git/zipからスキルをインストールし、Docker/E2B/Cubeの各サンドボックスで実行できる(v0.8.0で追加)
・長期記憶:セッションをまたいでユーザーのプロフィール・好み・タスクを記憶する機能
・マルチワークスペースRBAC:Owner/Admin/Contributor/Viewerの4段階ロール+リソース単位の権限+監査ログ
・可観測性:Langfuseによるエージェント推論・トークン使用量・パイプライントレーシング
・国際連携先:Notion/GitLab/RSS/Slack/Telegramなど。Feishu/DingTalk/企業微信(WeCom)など中国向け連携も多いが、国際的な読者にはNotion・GitLab・RSS・Slack・Telegramが実用的な選択肢になる
対応LLM・ベクトルDB・連携サービス(README記載・自己申告値)
・LLM:OpenAI/Azure OpenAI/Anthropic(Claude)/DeepSeek/Qwen(Alibaba Cloud)/Zhipu/Hunyuan/Doubao(Volcengine)/Gemini/MiniMax/NVIDIA/Novita AI/SiliconFlow/OpenRouter/Requesty/LiteLLM/Ollama
・ベクトルDB:PostgreSQL(pgvector)/Elasticsearch/OpenSearch/Milvus/Weaviate/Qdrant/Apache Doris/Tencent VectorDB
・オブジェクトストレージ:ローカル/MinIO/AWS S3(IAM Role・IRSAのデフォルト資格情報チェーン対応)/Volcengine TOS/Alibaba Cloud OSS/Kingsoft Cloud KS3/Huawei Cloud OBS
・ドキュメント形式:PDF/Word/Txt/Markdown/HTML/EPUB/MHTML/画像/CSV/Excel/PPT/JSON/XMind
・検索方式:BM25疎検索・密検索・GraphRAG・親子チャンキング・HNSW高速化pgvector(1024次元)・マルチディメンションインデックス
この対応範囲の広さは、特定ベンダーへのロックインを避けたい企業にとって「ベクトルDBやLLMプロバイダを後から差し替えられる」余地になる。ただし全プロバイダ・全ストレージバックエンドを本記事で動作確認したわけではなく、READMEの記載をそのまま紹介している点に注意。IMチャネルはWeCom/Feishu/Lark/QQBot/Slack/Telegram/DingTalk/Mattermost/WeChat/Yunzhijiaに対応し、Web検索もDuckDuckGo/Bing/Google/Tavily/Baidu/Ollama/SearXNG/Keenable/Zhipu AI/Exa/Metasoと選択肢が多い。
スキルサンドボックスと長期記憶
ReActエージェントは検索・MCPツールに加えて「スキルカタログ」を持つ。ClawHub/SkillHub/gitリポジトリ/zipからスキルをインストールし、Docker・E2B・Cubeいずれかのサンドボックスでファイル操作やコード実行を行わせる仕組みで、v0.8.0時点ではローカルのホストプロセスバックエンドは廃止され、Docker実行はオプトイン方式になっている(README記載)。加えて「クロスセッション長期記憶」では、ユーザーのプロフィール・好み・事実・タスク・関心を自動抽出し、確認を挟んだ上で記憶する。会話ごとに文脈がリセットされる一般的なRAG Q&Aとの違いはこの点にある。
セキュリティ・可観測性
APIキーやMCP/データソースの認証情報はAES-256-GCMで保存時暗号化され、鍵ローテーションにも対応する。app-docreader間の通信はgRPC TLS+トークンで保護され、Redis TLS・SSRF対策HTTPクライアント・OIDCのJWKS検証も備える(README記載)。可観測性はLangfuseに一本化されており、ReActループ・トークン使用量・ツール呼び出し・ドキュメント解析のトレースを追える。システム管理者向けにはタスクキューの深さやモデルごとの同時実行数を見るランタイムダッシュボードもある。
類似ツールとの比較
| 観点 | WeKnora | RAGFlow | LightRAG | DeepWiki-Open |
|---|---|---|---|---|
| 主な強み | RAG+ReActエージェント+自己メンテWiki | 高精度な文書解析+GraphRAG | 知識グラフ×デュアルレベル検索 | GitHubリポジトリからのWiki自動生成に特化 |
| Wiki自動生成(改訂履歴・ロールバック) | ○ | なし | なし | ○(リポジトリ限定) |
| スキルサンドボックス/エージェント運用 | ○(Docker/E2B/Cube) | 限定的 | 限定的 | なし |
| マルチワークスペースRBAC | ○(4段階ロール) | 既存記事参照 | 既存記事参照 | 既存記事参照 |
| スコープ | 任意ドキュメント→RAG+Wiki+Agent | 文書解析特化 | 知識グラフ検索特化 | GitHubリポジトリ限定 |
| 関連記事 | 本記事 | RAGFlowとは | LightRAG とは | DeepWiki-Openの使い方 |
RAGFlowとLightRAGのスター数・ライセンスは既存記事の実測値を参照し、本記事では再実測していない。WeKnoraはこの2つと機能が重なる部分もあるが、「生ドキュメントを改訂履歴付きの自己メンテ型Wikiに蒸留する」機能と、Owner/Admin/Contributor/Viewerのマルチワークスペース運用機能が独自の強みになる。
3ツールの立ち位置を単純化すると、RAGFlowは「検索精度を最大化するための文書解析エンジン」、LightRAGは「知識グラフを軽量に構築する検索レイヤー」、WeKnoraは「検索・エージェント・Wikiをひとつの運用基盤にまとめたプラットフォーム」に近い。DeepWiki-Openはスコープを「GitHubリポジトリの自動Wiki化」に絞っている点でWeKnoraのWiki Modeと機能的に近いが、対象が任意ドキュメントかリポジトリかで用途が分かれる。RAGの検索精度だけを求めるならRAGFlowやLightRAG、社内ドキュメントを継続運用するナレッジ基盤が欲しいならWeKnora、というのが機能面からの住み分けになる。
ライセンスと採用判断
WeKnoraはMITライセンスだが、LICENSEファイルには「licensed under the MIT License except for the third-party components listed below」という記載があり、同梱される一部コンポーネント(paddle-1.1.15等)はApache-2.0など別ライセンスになっている。単純に「MITだから自由」と判断せず、同梱コンポーネントのライセンスも合わせて確認したうえで採用を判断する必要がある。
企業バッキング(Tencent組織アカウント配下)があり個人依存のリスクは低く、直近のコミット活動も非常に活発(クローン時点のHEADコミットは検証当日のもの)。ただしv0.8.0のためpre-1.0であり、破壊的変更が入る可能性がある点は留意したい。
なお公式リポジトリには英語版READMEに加えて簡体中文・日本語(README_JA.md)・韓国語版のREADMEが用意されている(本記事執筆時点でクローンして確認)。日本語READMEの存在自体は確認できたが、内容が英語版と同期しているか、公式の日本語ドキュメントサイトが別途あるかまでは本記事では検証していない。中国拠点の開発ということもありFeishu/DingTalk/企業微信など中国向けIM連携が多い一方、README・CLI・CHANGELOGはいずれも英語が一次言語になっている。
まとめ
・待った方がよい人:pre-1.0の破壊的変更リスクを避けたい人、CVE-2026-22688のパッチ状況を確認する前に本番投入したい人
・次に確認すべきこと:LLMプロバイダのAPIキーを設定した上でのQ&A・Wiki自動生成の実動作、CVE-2026-22688の修正版タグの有無、同梱コンポーネント(paddle-1.1.15等)のライセンス一覧の全体像
参照ソース
・Tencent/WeKnora(公式リポジトリ・README) — 機能一覧・アーキテクチャ・ライセンス例外の記載を確認
・WeKnora CHANGELOG.md — v0.5.0でのWiki Mode GA、v0.7.2での改訂履歴追加など各バージョンの変更点を確認