AIコーディングエージェントに侵入テストやフォレンジックの手順を聞いても、汎用LLMの知識では「どのツールを、どういう手順で、何を確認しながら使うか」までは踏み込めないことが多い。Anthropic Cybersecurity Skillsは、この空白を817個の構造化スキルで埋めるコミュニティ製OSSだ。AIエージェント セキュリティ スキルという交差領域に特化し、MITRE ATT&CKなど6つの業界フレームワークへスキルをマッピングしている点が最大の特徴になる。

Anthropic Cybersecurity Skills 公式バナー。盾のアイコンとセキュリティ関連のアイコン群
Anthropic Cybersecurity Skills の公式バナー(出典: mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills 公式README)
30秒でわかる Anthropic Cybersecurity Skills(2026年8月時点)
  • 正体:mukul975氏によるコミュニティ製OSS。Anthropic PBC非公式(README末尾に明記)
  • 何ができる:29のセキュリティドメイン・817個のスキル(Markdown+YAML)をAIエージェントに読み込ませ、MITRE ATT&CK等6フレームワークに沿った実務ワークフローを実行させる
  • 何を解決する:AIエージェントが「どのツールを、いつ、どう使うか」という現場の暗黙知を持たない問題
  • 実測git clone後にls skills/ | wc -lを実行し、README記載の「817スキル」がmain・最新タグv1.3.0の両方と一致することを確認
  • 注意:レッドチームC2やフィッシング模擬など攻撃的技術を含むため、認可された環境でのみ使用する

サプライチェーン攻撃への防御スキルも29ドメインの1つとして含まれるが、対策の全体像は サプライチェーンセキュリティ2026|攻撃手法・防御ツール・実践チェックリスト を参照してほしい。本記事はAIエージェント向けスキル集という切り口に絞って解説する。

Anthropic Cybersecurity Skillsとは|817個のセキュリティスキルをAIエージェントに渡すコミュニティ製OSS

Anthropic Cybersecurity Skills(GitHub: mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills)は、★28,361・フォーク3,445(実測時点)のリポジトリで、2026-02-25の作成から5.5ヶ月弱でこの規模まで成長した。ライセンスはApache-2.0で、READMEバッジの宣言とLICENSEファイル原文が一致していることを確認済みだ。

⚠️ Anthropic公式ではない
プロジェクト名に「Anthropic」を含むため誤解されやすいが、README末尾に "Community project by @mukul975. Not affiliated with Anthropic PBC." と明記されている。Anthropic社が開発・保証しているツールではない。

正体は実行可能なコードベースではなく、agentskills.io標準に準拠したMarkdown+YAMLのナレッジ/プロンプト資産集だ。1スキルはSKILL.md(YAML frontmatter+手順本文)と、references/(標準マッピング・詳細手順)・scripts/(補助スクリプト)・assets/(チェックリストのテンプレート)で構成される。README曰く、1スキルはfrontmatterのスキャンだけなら約30トークン、全文読み込みでも500〜2,000トークンで済むよう設計されており、817スキル全体を一度にスキャンしてもコンテキストを圧迫しにくい「progressive disclosure」構造になっている。

読者の3つの問いへの答え
何ができる:AIエージェントにセキュリティ実務のプレイブックを817本渡す ② 何を解決する:AIエージェントが「どのツールを・いつ・どう使うか」という現場の暗黙知を持たない問題 ③ 何を代替できる:汎用LLMの当てずっぽうな手順提案を、フレームワークに裏付けられた構造化ワークフローに置き換える

対応プラットフォームも幅広い。AIコーディングアシスタントではClaude Code・GitHub Copilot・Cursor・Windsurf・Cline・Aider・Continue・Roo Code・Amazon Q Developer・Tabnine・Sourcegraph Cody・JetBrains AIが、CLIエージェントではOpenAI Codex CLI・Gemini CLIが、自律型エージェントではDevin・Replit Agent・SWE-agent・OpenHandsが、エージェントフレームワークではLangChain・CrewAI・AutoGen・Semantic Kernel・Haystack・Vercel AI SDKが対象で、agentskills.io標準に対応する任意のプラットフォームで動く(README「Compatible platforms」記載)。

インストールと使い方——実機で検証した2つの方法

READMEの「Quick start」に載っている手順は2つ。実際にcloneして中身と手順を検証した。

# 方法1: npx(README推奨)
npx skills add mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills

# 方法2: git clone(確実な代替手段)
git clone https://github.com/mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills.git
cd Anthropic-Cybersecurity-Skills
ls skills/ | wc -l   # → 817(README記載の数値と一致することを実測)

npx skills addは、本記事の検証環境(非対話シェル)では入力待ちでハングし、タイムアウトした。npmレジストリ自体への到達はnpm view skills versionで正常(1.5.22が返る)ことを確認しているため、レジストリの問題ではなく、skillsCLI(agentskills.io系の別プロジェクト)がインタラクティブなプロンプトを出す設計に起因すると見られる。CI・スクリプト等の非対話環境では、git clone方式を確実なフォールバックとして使うのが安全だ。

もう一つ、README本文には明記されていないが、リポジトリには.claude-plugin/marketplace.jsonplugin.jsonが同梱されており、Claude Codeのプラグイン形式でも追加できる設定になっている。

# Claude Codeのプラグイン形式(設定ファイルから確認できる導入経路。README本文には未記載)
/plugin marketplace add mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills
/plugin install cybersecurity-skills@anthropic-cybersecurity-skills

Claude Codeでこのcybersecurity skillsを運用する場合、claude code セキュリティの観点では「どのスキルが読み込まれ、どのコマンドを実行しようとしているか」を都度確認できる対話的な承認フローを維持したまま使うのが安全だ。攻撃的なワークフローを含むスキル集である以上、自動承認モードで無人実行させるのは避け、Workflowセクションのステップごとに人間が確認する運用が現実的になる。

インストール後、AIエージェントがスキルをどう選んで実行するかはREADMEに具体例がある。「メモリダンプから資格情報窃取の痕跡を分析して」というプロンプトに対し、エージェントは817個のfrontmatterを走査して関連スキルを絞り込み、上位候補を全文ロードしてWorkflowセクションの手順を実行し、Verificationセクションで結果を検証する、という流れだ。

flowchart TD A["ユーザーのプロンプト
例:メモリダンプを分析して"] --> B["817個のfrontmatterを走査
(~30トークン/件)"] B --> C["関連スキルを数件に絞り込み"] C --> D["上位スキルを全文ロード
(500〜2,000トークン/件)"] D --> E["Workflowセクションを
ステップ実行"] E --> F["Verificationセクションで
結果を検証・ATT&CK等へマッピング"]

6フレームワーク・29ドメイン——817スキルの中身

817スキルは29のセキュリティドメインに分かれ、クラウドセキュリティ(66)・脅威ハンティング(58)・脅威インテリジェンス(52)が上位を占める。

29ドメインのうちスキル数が多い上位7ドメインの棒グラフ。クラウドセキュリティ66・脅威ハンティング58・脅威インテリジェンス52など
スキル数が多い上位7ドメイン(出典: 公式README「What's inside — 29 security domains」表の実数値)

各スキルは、該当する範囲だけ6つのフレームワークにマッピングされる。フォレンジック系のスキルはMITRE ATT&CK+NIST CSFの2つで足りる一方、AIセキュリティ系のスキルはそこにMITRE ATLAS・NIST AI RMFも加わる、という設計だ。817スキル全体でのフレームワーク別カバレッジはMITRE ATT&CK 805件・NIST CSF 2.0 804件・MITRE D3FEND 139件・NIST AI RMF 97件・MITRE F3 94件・MITRE ATLAS 93件(いずれもREADME記載、v19.1/2.0/v1.4.0/1.0/v1.1/2026.07という各フレームワークのバージョン時点の数値)。

6つのフレームワーク(MITRE ATT&CK・NIST CSF 2.0・MITRE D3FEND・NIST AI RMF・MITRE F3・MITRE ATLAS)ごとのマッピング数
817スキルが対応する6フレームワークとマッピング数(出典: 公式README「Six frameworks, one skill library」)

上位7ドメイン以外の内訳も含め、29ドメイン全体の実数値を一覧にしておく(出典はいずれも公式README「What’s inside」表)。

ドメイン スキル数 ドメイン スキル数
クラウドセキュリティ 66 インシデントレスポンス 26
脅威ハンティング 58 脆弱性管理 25
脅威インテリジェンス 52 ペネトレーションテスト 21
ネットワークセキュリティ 43 DevSecOps 18
Webアプリセキュリティ 42 ゼロトラストアーキテクチャ 17
デジタルフォレンジック 41 エンドポイントセキュリティ 17
マルウェア解析 39 暗号技術 16
ID・アクセス管理 37 フィッシング防御 15
SOC運用 35 AIセキュリティ 14
レッドチーミング 33 モバイルセキュリティ 13
コンテナセキュリティ 33 ランサムウェア対策 13
セキュリティオペレーション 28 コンプライアンス・ガバナンス 9
OT/ICSセキュリティ 28 サプライチェーンセキュリティ 8
APIセキュリティ 28 欺瞞技術(Deception) 6
ハードウェア・ファームウェア 4

MITRE ATT&CKの戦術別では、Initial Access(467)・Privilege Escalation(464)・Persistence(444)・Stealth(旧Defense Evasion、442)にスキルが集中しており、侵入後の権限昇格・永続化・防御回避という「攻撃が長期化する局面」を手厚くカバーしていることが分かる。

1スキルの実体は、READMEに掲載されている実例のYAML frontmatterで具体的にイメージできる。

---
name: performing-memory-forensics-with-volatility3
description: >-
  Analyze memory dumps to extract running processes, network connections,
  injected code, and malware artifacts using the Volatility3 framework.
domain: cybersecurity
subdomain: digital-forensics
tags: [forensics, memory-analysis, volatility3, incident-response, dfir]
atlas_techniques: [AML.T0047]
d3fend_techniques: [D3-MA, D3-PSMD]
nist_ai_rmf: [MEASURE-2.6]
nist_csf: [DE.CM-01, RS.AN-03]
version: "1.2"
author: mukul975
license: Apache-2.0
---

本文側は## When to Use(発動条件)・## Prerequisites(必要ツール・権限)・## Workflow(実行手順)・## Verification(成功確認)という4セクションで統一されている。

開発のリリースタイムラインも実測しておく。リポジトリ作成は2026-02-25で、v1.0.0(2026-03-11公開・734スキル/26ドメイン)→v1.1.0(2026-03-21公開・753スキル)→v1.2.0(2026-04-06公開・5フレームワーク対応)→v1.3.0(2026-06-22公開・現行の6フレームワーク体制)という4リリースを経ている。最新タグv1.3.0時点のスキル数をGitHub API(git/trees)で数えたところ817件で、mainブランチのgit clone実測値と一致した——READMEの「817」という数値はmain・最新タグのどちらでも裏付けが取れている。

AIエージェント自身のセキュリティを守るスキルも——MCPサーバー監査を例に

29ドメインには「AIセキュリティ」(14スキル)という区分があり、AIエージェント自身の攻撃対象領域(プロンプトインジェクション・MCPサーバーの脆弱性など)を扱うスキルも含まれる。代表例がauditing-mcp-servers-for-tool-poisoningだ。

このスキルは、MCPサーバーが提供するツールの「description」フィールドに悪意ある指示を仕込むtool poisoning攻撃(OWASP MCP03:2025)や、ツールの挙動を後から差し替えるtool shadowing、承認後に説明文を変更するrug pull、SSRFや未認証公開といったMCPサーバー特有のリスクを、Invariant Labsのmcp-scanによる静的・動的解析と手動チェックで監査する手順をまとめている。frontmatterにはnist_ai_rmf: [MANAGE-2.2]atlas_techniques: [AML.T0010]が付与されており、MCPサーバーをエージェントスタックに追加する前・内部MCPサーバーのレビュー時・rug pull検知時・CI/CDゲートとしての利用を想定している。

MCPのトランスポート層自体の設計欠陥については MCP脆弱性!STDIOトランスポートの設計欠陥で20万台のサーバーがRCEの危険に——OX Securityが警告 で詳しく扱っているので、あわせて参照してほしい。AIエージェントに攻撃側のペンテスト実務を持たせる方向のOSSとしては、実際にPoCで裏取りしながら攻撃するタイプの Strixとは|AIが実際に攻めてPoCで裏取りするOSSペンテスターを実測で解説 との組み合わせも相性がよい。

汎用Claude Skillsカタログとの違いと実体評価

当サイトには汎用的なClaude Skillsのカタログ・解説記事が複数あるが、それらとAnthropic Cybersecurity Skillsは主題が明確に異なる。汎用カタログは「スキルという仕組み自体の解説・幅広い収集」が主眼で、セキュリティは数あるジャンルの1つに過ぎない。対してAnthropic Cybersecurity Skillsは、817スキル全てをセキュリティ29ドメインと6フレームワークに体系化した専門特化型だ。「スキル」という仕組みそのものの解説は Claude Skillsとは|「スキル=フォルダ」の仕組みと作り方・使い方を徹底解説 を参照してほしい。

汎用Claude Skillsカタログ記事とAnthropic Cybersecurity Skillsの違いを対比した図
汎用スキルカタログとの違い。セキュリティ29ドメイン特化・6フレームワークマッピング・実務ワークフローが差別化点

セキュリティ領域の類似プロジェクトとの比較は次の通り(既存記事から転記可能な情報のみ・裏取りできていない項目は「未確認」と明記する)。

比較対象 ライセンス 特徴・本OSSとの違い
composiohqawesome-claude-skills 未確認(既存記事から転記時に要確認) 未確認 汎用スキルのキュレーションリスト。セキュリティ特化ではない
open-skills 未確認(既存記事から転記時に要確認) 未確認 汎用スキルの収集・管理ツール
Anthropic Cybersecurity Skills(本記事) Apache-2.0 28,361 セキュリティ29ドメイン・817スキルを6フレームワークにマッピング。Claude Code・GitHub Copilot・Codex CLI・Cursor・Gemini CLI等26以上のプラットフォームに対応

実体評価として、star数の裏側も見ておく。contributor数はGitHub API実測で10人だが、開発者mukul975氏が167コミット、2位のvalorisa氏でも18コミットに留まり、実質的なバス係数は1だ。スキル定義集という性質上、コード規模の割にコミットが1人に偏るのは珍しくないが、企業サポートが無い個人プロジェクトである点は正直に書いておく。一方で、star数だけの「バイラル」ではないことを裏付ける材料もある。awesome-agent-skills・awesome-ai-security・SkillsLLM・NeverSight skills_feedなど複数の外部スキルカタログ・キュレーションサイトに実際に掲載されており(README「Featured in」記載)、単発の話題性で終わっていない。

実質的な開発者は1人(バス係数1)だが、複数の外部カタログサイトに横断的に採用されている点は、単なるバイラルとは違う実体の裏付けとして評価できる。

README「What people are saying」には第三者からの評価も掲載されている。AI/技術系クリエイターのHasan Toor氏(@hasantoxr)は「AIエージェントがそのまま使える、本物の・整理されたセキュリティスキルのデータベース。チュートリアルでもブログ記事でもない」とコメントし、Medium執筆者のfazal-sec氏も「セキュリティスクリプトの寄せ集めではなく、AI駆動のセキュリティワークフロー向けに設計された構造化ナレッジベースだ」と評している(いずれもREADME掲載の引用)。コントリビューションは活発で、CONTRIBUTING.mdによれば新規スキルの追加はドメインテンプレートに沿ってPRを送る形式で受け付けており、Deception Technology(当時2スキル)・Compliance & Governance(当時5スキル)など手薄なドメインへの貢献を呼びかけている。PRは48時間以内にレビューされる運用で、実質1人が主導しつつもコミュニティからの追加を取り込む体制はある。

導入前に確認すべき対策も明記しておく。このリポジトリはレッドチームC2・フィッシング模擬・エクスプロイトなど攻撃的・デュアルユース技術を含むため、開発元は「認可された環境(自己所有システムまたは書面での許可があるシステム)でのみ使用し、適用法令を遵守すること」を明記している。影響範囲・利用対象は認可されたペネトレーションテスト・セキュリティ研究・教育に限られ、無許可の第三者システムへ向けて使うことは想定されていない。導入時はまずCTF環境や自社所有の検証環境で試し、本番のインシデント対応やレッドチーム演習に組み込む前に、社内の利用規程・法務確認を挟むのが妥当な対策になる。

自律型ペネトレーションテストの標準化という文脈では OWASP APTS|AIエージェント時代の自律型ペネトレーションテスト基準を読む も参考になる。AIエージェントにセキュリティ実務のスキルを持たせるという方向性は共通しており、標準化の動きと個別OSSの実装を突き合わせて読むと理解が深まる。

まとめ|導入前に確認すべきこと

Anthropic Cybersecurity Skillsは、817個のセキュリティスキルをMITRE ATT&CKなど6フレームワークに体系的にマッピングし、Claude Codeを含む26以上のAIエージェント環境へコマンド一発で追加できるコミュニティ製OSSだ。
・導入はgit cloneが確実(npx skills addは非対話環境でハングする挙動を実機確認)
・817という数値はmain・最新タグv1.3.0の両方で実測一致
・攻撃的技術を含むため、認可された環境限定で使う前提を忘れない
・開発者は実質1人(バス係数1)で、Anthropic非公式であることも導入判断の材料にしてほしい

参照ソース

mukul975/Anthropic-Cybersecurity-Skills(公式リポジトリ・README) — スキル構成・フレームワークマッピング・インストール手順・ライセンスを取得
Anthropic-Cybersecurity-Skills 公式サイト — プロジェクト概要の一次情報